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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1380号 判決 1957年12月16日

宇都宮市西原町二千七百四十九番地

控訴人

鈴木穐男

右訴訟代理人

菊地三四郎

東京都千代田区代官町二番地

被控訴人

関東信越国税局長

市川晃

指定代理人 家弓吉己

堺沢良

広瀬時江

亀井辰己

右当事者間の昭和三十一年(ネ)第一、三八〇号所得税不当課税更正処分の取消並に変更請求控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和二十五年三月二十四日付を以て、昭和二十二年度控訴人の所得金額並に所得税額について宇都宮税務署長のなした更正処分を相当して、控訴人の同年度所得金額百八十四万一千五百五十六円、所得税額百四十六万六千八百十九円(増加税額九十四万九千円)加算税額五十七万九千三百六十四円追徴税二十三万七千二百五十円(控訴状控訴の趣旨に追徴税二十二万二百五十円とあるのは、誤記と認める)とした審査決定を取消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並に証拠の関係は、控訴代理人において「(一)控訴人の提出した審査請求書には「前記の様な過大な税額は到底納付することができず、破産するも尚足らず、他には全く方途のない窺状になつています」と記載してあつて、加算税追徴税だけでなく、本税についても不服なることを明示し、ただ「本税は如何なる苦痛を忍むでも納付する覚悟でありますれば、免除決定あらんことを御願する」としたのは、本税は勿論不服であるが、加算税追徴税さえ免除して貰えれば、本税だけは支払いたい。然しそれが免除できないならば、本税ももとより不服であるから、これについても審査を求めるとの趣旨を表明したのに外ならない。従つて右審査請求書により、控訴人が本税を除外して加算税追徴税についてのみ、審査を請求したと見ることは失当である。(二)昭和二十二年三月三十一日法律第二七号同年四月一日施行の所得税法(旧法)の下においては、租税救済の制度は国税局における審査と裁判所に対する出訴の二段階に分たれ、現行法上再調査審査、裁判の三段階が置かれ、且つ審査の内容も税務署長のなした原処分の当否を判定するに止るのと異り、旧法時の審査は原処分にかかわりなく、別個の調査によつて新に所得額等を決定すべきものとされていた。従つて本件においても審査請求書の形式如何に拘らず、国税局長は審査の段階で控訴人の所得全般に亘つて詳さに事実上の調査を遂げ、追徴税加算税のみならず、所得額についても改めて決定をしたものである。それ故本税については審査の決定がないとする被控訴人の主張は理由がない。」と述べ、甲第十九号証の一、二を提出し、当審証人坂本茂の証言を援用し、被控訴代理人において「控訴人の主張するように旧法時における審査決定が原処分に代り、新に税額の決定をやり直す性質のものであつたとしても、追徴税のみに対する審査請求事件において、国税局長が審査の対象とされてない本税についてまで原処分に代る決定をする必要もなければ、またこれをする法規上の根拠もないので、被控訴人が本税につき審査決定をした事実は全く存しない。」と述べ、前記甲号証の成立を認めた外、原判決事実の記載と同一である。よつてこれを引用する。

理由

当裁判所は更に審究の結果、原判決と全く同一判断の下に控訴人の本訴請求は、加算税に関する限り不適法として却下すべく、その余の部分は失当につき棄却すべきであると判定したので、原判決理由の説明をここに引用する。(但し原判決理由中記録四七一丁裏中段の「更正として」とあるは「更正をして」の、同四七六丁裏五行目「申告となすべき」は「申告をなすべき」の誤植につき訂正する)控訴人が国税局長に宛てて提出した審査請求書は、その表題並に文面に徴するも、原判示のとおり加算税並に追徴税のみに関すること明らかであつて、控訴人の主張するように、これが免除を受け得られない場合には所得税の本税についても審査を請求するとの趣旨を包含するものとは、到底解し難い。従つて被控訴人国税局長が、審査請求の対象とならなかつた本税につき原処分に代る決定をしたものと認めることはできない。

控訴人が当審で提出した成立に争のない甲第十九号証の一、二によると、宇都宮税務署長が昭和二十七年十月九日付で控訴人に対し、昭和二十二年度総所得金額一、八四一、五五六円所得税額一、四六六、八一九円追徴税額二三七、二〇〇円加算税額三二六、九三〇円と訂正通知したことが認められるが、これは先に通知した加算税の額に計数上の誤謬があることを発見したので、これを訂正するためその正当額を通知したに止り、別に新な所得額等の決定をしたものでないと解すべきであるから同号証は何等控訴人の主張を理由あらしめる資料とはなし得ないし、当審証人坂本茂の証言によつても、当裁判所の前記判定を左右するに足りない。

然らば原判決は相当であつて、本件控訴は理由なき故これを棄却すべきものとし、民事訴訟法第八十九条第九十五条に則り、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 簿根正男 判事 奥野利一 判事 山下朝一)

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